の構造

眼球の前方には黒目(角膜)があり、その後ろには透明な液体(前房水)と虹彩(瞳孔を形成する部分)が存在します。そのさらに後ろに水晶体があり、水晶体の後ろには、透明で卵の白身のような硝子体が眼球内に満たされています。硝子体の後方には、神経と血管からなる膜である網膜があります。網膜の中心部は黄斑と呼ばれています。
 
硝子体は細かい線維から成るゲル状の透明な物質で、眼球の内部を満たしています。光を通しやすく、眼球の形を保つとともに、入ってくる光を屈折させます。

子体手術とは

硝子体は眼球の水晶体よりも奥に位置する透明なゼリー状の組織で、さまざまな疾患に関連しています。加齢や疾患によって硝子体が変質し、網膜を引っ張ったり、出血によって透明性が損なわれるなどして目に障害を引き起こします。こうした変質した硝子体を除去する手術が硝子体手術です。同時に、網膜の病気にも治療が施されます。
 
硝子体手術は非常に繊細で難易度の高い手術とされます。通常は局所麻酔で行われ、手術時間は平均で1時間から2時間以上かかることもあります。当院での硝子体手術では、目の中に機器を挿入し、硝子体を切除しながら原疾患に応じた眼内治療も行います。手術では、角膜輪部(黒目と白目の境界)から3.5〜4mmの位置に3か所の小さな穴を開け、それぞれの穴から硝子体を切除するためのカッター、眼内を照らす照明器具、眼内圧を維持するための灌流液を流す回路を挿入します。
 

 
手術の最初に硝子体を切除し、その際には眼底の周辺部に異常がないかを詳細に観察します。網膜が弱くなっている変性巣や硝子体の牽引を残したまま手術を終えてしまうと、術後に網膜剥離を引き起こすリスクが高まるためです。硝子体を切除した後には、疾患に応じた処置(膜剥離、レーザー治療、止血操作など)が行われます。
 
手術は通常、灌流液(眼内の組成に近い人工的に調整された液体)で終了しますが、黄斑円孔や網膜剥離の手術では、術後に網膜を内側から抑えるために膨張性のガスを注入します。このガスは1〜2週間程度で吸収されるため、その間は視界がぼやけることがあります。
 
小切開の硝子体手術では、創口が小さく、良好な閉鎖が得られるため、基本的には縫合は行いません。ただし、若年者や強度近視の方、眼科手術歴がある方などで創口の閉鎖が難しいと考えられる場合は、吸収糸で縫合します。吸収糸は1〜2カ月で体内に吸収されますが、術後に異物感が続いたり充血が強い場合は、抜糸も可能です。
 
硝子体手術は非常に精密で高度な技術が求められ、患者様の眼に大きな負担をかける難易度の高い手術ですが、手術機器の進化や技術の向上により、多くの疾患が手術可能となり、比較的安全に行えるようになりました。当院では、最新の手術設備と熟練したスタッフにより、安全で確実な手術を提供しています。

酔について

局所麻酔

手術は基本的に局所麻酔で行います。主に結膜(白目)を小さく切開し、目の後ろ側に麻酔薬を注入するテノン嚢下麻酔が使用されます。局所麻酔が施された後は手術中に痛みを感じることはありませんが、意識は残ります。強い不安を感じる方には、点滴から鎮静剤を投与することも可能です。

内障の同時手術について

白内障になると、明るい場所ではより明るく感じたり、眩しさを感じたりすることがあります。また、硝子体手術を行うと、白内障が急速に進行することがあります。そのため、白内障手術を同時に行うことで、硝子体手術をより安全かつ確実に実施できるという利点があります。
このため、当院ではほとんどの症例で、硝子体手術と白内障手術を同時に行っています。
 

①角膜(強角膜)切開

② 水晶体を超音波で乳化吸引

 
 

③ 水晶体の袋(嚢)の中に眼内レンズを挿入

④ 眼内レンズの固定を確認

 

後の安静について

手術の方法によって、術後の安静の取り方が異なります。
 
 灌流液

手術終了時に灌流液(眼内の組成に近い人工的に調整した液体)で手術が完了する場合、術後の体位に特別な制限はありません。

 膨張性ガス・シリコーンオイル

手術終了時に眼内にガスやシリコンオイルを注入した場合、浮力によって網膜の復位を促すため、術後約1週間は下向きで安静を保つ必要があります。経過が良好であれば、約10日間の入院が必要となります。
※眼内にガスや空気が入っている間は、飛行機の搭乗や登山を控えてください。これらの活動により眼内のガスが膨張し、眼圧が上昇する可能性があります。

併症について

当院では、術前および術後の抗生剤の使用や術中の消毒など、できる限りの対策を行っていますが、手術の創部や眼表面から病原菌が侵入し、眼内感染や合併症が発生する可能性があります。

1. 網膜剥離
手術後に様々な原因で網膜剥離が発生することがあります。そのような場合には、再度硝子体手術を行い、網膜剥離の治療が必要となります。
2. 手術後の硝子体出血
さまざまな原因で眼内に出血が生じることがあります。出血の量が多い場合には、再度硝子体手術を行い、眼内の出血を除去する必要があります。
3. 血管新生緑内障
網膜の血流が障害されると、眼内に存在する血管新生因子が虹彩に作用し、異常な血管を形成することがあります。これにより眼内の水の流れが阻害され、眼圧が上昇して緑内障を引き起こすことがあります。
4. 黄斑前膜
網膜の中心部、つまり黄斑に術後に増殖性の膜が形成され、視力が低下する病気です。
5. 増殖性硝子体網膜症
手術後に、取りきれなかった硝子体が炎症反応などによって強い増殖性の変化を引き起こし、網膜を引っ張ることで網膜剥離を発生させる病気です。
6. 術後眼内炎
手術中に細菌が眼内に侵入し、手術後に強い炎症を引き起こす可能性があります。その場合には、硝子体手術を行って眼内を抗生物質で洗浄する必要があります。

子体手術の適応疾患

白内障になると、明るい場所ではより強く眩しく感じ、視界が見づらくなります。また、視界全体に白い薄いもやがかかったように見える症状も現れることがあります。
 黄斑上膜
 黄斑円孔
 (裂孔原性)網膜剝離
 黄斑下出血
 糖尿病網膜症

子体手術の適応について

硝子体疾患の予後は疾患の内容によって異なるため一概には言えませんが、視力にとって重要な黄斑や視神経に障害がなければ比較的良好です。手術直後に視力が悪くても、術後半年ほどで視力の回復が期待できます。ただし、術後にさまざまな合併症が発生する可能性もあります。
 
また、手術が成功しても視力が改善しない場合や、逆に視力が悪化することもあります。これは、網膜剥離の治療や黄斑前膜の除去などの手術を行っても、現代の医学では網膜の機能を完全には回復させられない場合があるからです。
 
そのため、病気や手術の内容を十分に理解した上で手術を受けることが重要です。信田眼科医院では、医学的に手術が必要であっても、その手術を治療として選択するかどうかについて、患者様としっかり相談させていただいています。